地域には猫好きさんもいれば、自宅の敷地内に糞尿をされたり鳴き声に悩まされたりと、野良猫の被害に悩んでいる人もいるでしょう。猫アレルギーを抱え、健康上の問題で猫と距離をおかなければならない人もいます。
さまざまな人が暮らす地域において、猫と人が共存し幸せに暮らしていくために『地域猫活動』という取り組みがあることをご存じでしょうか?
この記事では正しい知識のもとで『地域猫活動』に取り組めるよう、地域猫活動の一般的な始め方や関わり方、さまざまな活動内容についてお伝えします。
目次
そもそも『地域猫』ってどんな猫?野良猫との違いは?
猫は繁殖能力がとても高い生き物です。野良猫の場合、野外で暮らしている他の猫との接触機会が多くどんどん繁殖します。繁殖にともない、
- 野良猫同士の喧嘩が増える
- 色んな場所で糞尿の被害が増える
- ゴミを荒らされたり、車を傷つけられたりする
このようなさまざまなトラブルが起きてしまいます。同時に、野良猫が増えることで餌を与える人も増えるため、時には人間関係の問題が発生することもあるでしょう。
上記のようなトラブルを最小限に抑えるために、地域の理解をもとに野良猫の不妊・去勢手術を行い、地域の住民などの協力によって野良猫を適正に管理し、野良猫の数を減らすことを目的とした取り組みが『地域猫活動』です。
また、地域猫活動によって適切に管理された猫を『地域猫』と呼びます。
地域における野良猫問題と地域猫活動
さまざまな人が暮らす地域においては、それぞれの立場により地域の野良猫の悩みが異なります。
悩み(1)野良猫で迷惑している
・鳴き声がうるさく、糞尿されて困っている
・車やバイクに傷を付けられて困った
・食べ残しの餌が散乱したままで困る
・子猫が増えて困っている
悩み(2)野良猫を助けたい
・猫を救うために食べ物を与えたい
・野良猫の里親になりたいけどマンションなので飼えない
・野良猫を助けたいが無責任な繁殖につながるのは困る
・どうすれば野良猫を助けられるのか分からない
それぞれの立場での野良猫の悩みは異なります。さまざまな角度から地域の悩みを解決する取り組みとして『地域猫活動』が存在します。
野良猫トラブルに悩む人にとっては、猫は迷惑な存在です。「猫が可愛そう」という安易な考えから、無責任にエサを与えればいいわけではありません。
適正な管理のもと、「猫」にとっても地域で暮らす「人」にとっても望ましい環境を整備することが地域猫活動です。
『地域猫活動』の目的とゴール
『地域猫活動』は、野良猫による環境被害や猫の殺処分を減らすための有効的な解決手段として全国的に実施されています。
より身近な視点からみると、地域に住む飼い主のいない猫たちを排除するのではなく、野良猫を適正に管理することでトラブルを防ぎ、将来的には野良猫=飼い主のいない猫を減らしていこうという目的があります。
よって、猫好きの人が集まって行う愛護活動とは異なり、野良猫の被害で困っている地域住民・猫に関心のない住民も含めた地域全体の理解と協力が必要です。
『地域猫活動』は即時に結果が出るものではなく時間のかかる活動です。が、諦めずに継続して取り組むことで野良猫による地域の環境被害を防ぎ、飼い主のいない猫を減らし、殺処分ゼロに向けて前進することができるのです。
あなたにもできる!地域猫活動で知っておきたいルールやマナー
地域猫活動は単なる愛護活動とは異なり、地域住民の理解のもとで実施するものだとお伝えしました。そんな地域猫活動をスタートするうえで、知っておくべきルールやマナーも存在します。地域ごとにローカルルールは存在しますが、一般的なマナー面についてチェックしていきましょう。
餌やりさんの餌やりマナー
地域猫活動では、飼い主のいない猫に餌を与える「餌やりさん」に「餌やりマナー」を理解してもらえるよう“伝える活動”も行われています。
- 決められた餌やり場所で餌やりを行う
- 毎回決まった時間に実施する
- 餌の放置は厳禁!必ず後片付けまで行う
他人の私有地での身勝手な餌やりはトラブルに発展します。私有地で餌やりを実施することが望ましいですが、公園や公共の場で餌やりを行う場合は行政機関や保健所などへ確認を取るようにしましょう。
また、餌の放置はカラスや害虫被害を招く原因となります。餌やりを実施する場合は、後片付けまで確実に責任を持って実施しましょう。
糞尿のお掃除サポート・定期的なパトロール
可能であれば、所有者や管理者の了承を得た場所に地域猫専用のトイレを設置します。猫のウンチの匂いで「臭いつけ」を行ったうえで、トイレを清潔に保っておけば猫たちは決まった場所で排泄をするようになります。排泄のあとは速やかに掃除をすませ、常に清潔な環境を維持することが大切です。
設置トイレの管理だけでなく、地域内の定期的なパトロールを行い、トイレ以外の排泄を見つけた場合はお掃除をして周辺環境の美化に努めましょう。周辺環境の美化を保つことは地域に『地域猫活動』の理解を得られる重要なポイントとなります。
地域猫への寒さ対策:いつから?どうやって?
冬は寒さが厳しく、外で暮らす飼い主のいない猫たちにとって過酷な季節となります。朝晩の冷え込みが気になり出したら、なるべく雨風の吹き込まないところに地域猫用の段ボールハウスを設置してもいいでしょう。
不要になった毛布やバスタオルなどがあれば、それを補充してあげるとより寒さ対策につながります。また、定期的に破損の有無や水濡れがないかをチェックし、必要な場合は新しいものに差し替えてあげましょう。
地域猫への暑さ対策:いつから?どうやって?
猫は体が毛で被われているために熱を体の外に放出しにくく、汗腺も少ないので体温調節が苦手だといわれています。夏の炎天下に一日中外で暮らす飼い主のいない猫たちにとって、真夏の暑さは死活問題。
猫たちを暑さから守るためにできることは、水を補充してあげる・氷を加えてあげる・寝床(ダンボールハウス)にタオルなどで包んだ保冷剤を置いてあげることなどです。保冷剤のかわりにペットボトルに水を入れて凍らせたものでもよいでしょう。
TNR活動と『さくら猫(耳カット)』
取り組みやすい地域猫活動についてご紹介してきましたが、何よりも大切なのが「不妊・去勢手術」の徹底です。猫の繁殖スピードはすさまじく、1匹のメス猫がたった1年間で数十匹に増えてしまう可能性があるほど。
よって、野良猫の数を今よりも増やさないためには『不妊・去勢手術の全頭実施』が最重要課題。
お外で暮らす地域猫たちにも確実に手術を受けさせることにより、飼い主のいない猫の増加を防ぐ必要があります。そのための取り組みとして『TNR活動』が積極的に実施されています。
地域猫を守る『TNR活動』とは?
猫たちをいったん捕獲し、不妊・去勢手術を実施したうえで元の場所に戻してあげる。この取り組みを『TNR活動』と言います。
<TNR活動>
Trap →野良猫を安全に捕獲する
Neuter →不妊・去勢手術をする
Return →元の場所に戻す
『地域猫』を望まない繁殖から守り、一代限りの寿命を全うできるように管理していきます。
地域全ての野良猫に手術を行うことができれば、野良猫の数は確実に減少し、殺処分という運命から猫を守ることにつながります。
さくら猫の耳カット:性別によって左右が違うって知ってる?
不妊去勢手術を受けた猫は、ひと目で分かる目印として耳をV字にカットします。誰がみても分かる目印をつけることで、まちがって何度も捕獲してしまうなど、余計なストレスや負担から猫たちを守れます。
この耳カットですが、左右の耳で性別が判別できるように
- 左耳は女の子
- 右耳は男の子
と決められています。もしさくら猫を見かけたら、左右どちらの耳かチェックしてみてくださいね!
カットした猫耳が桜の花びらのように見えることから、『さくら猫』とも呼ばれています。
犬猫生活福祉財団も『TNR活動』を推進しています!
犬猫生活福祉財団では、シェルターに併設するスペイクリニックにて不妊・去勢手術を実施しています。また、地域の方と連携し、野良猫が多い地域での出張TNRも実施いたします。
群馬県前橋市の近隣で「野良猫に手術を受けさせたい」とお考えの方は、こちらのページよりご相談ください。
TNR活動やさくら猫に関するコラムも発信していますので、併せてぜひチェックしてみてください!
・さくら猫(耳カット)ってご存知ですか?〜猫を守るためのTNR活動のご紹介〜
・【漫画で学べる!動物福祉】さくら猫(耳カット)ってご存知ですか?
地域猫を飼うには?里親として家猫に迎えるケースも!
- お外で暮らす猫を家猫にしたい
- 里親として地域猫を受け入れたい
地域猫活動を実施していく中でこんな思いを抱く方も多いです。地域猫として餌やトイレのお世話をサポートしているとはいえ、お外での暮らしは決して安全ではなく危険と隣り合わせ。家猫として迎え入れることで、安全・快適な生活を保証することができます。
一方で、もともと野良猫として生活をしていた猫を「完全室内飼育」の家猫にするために、注意するべき事項も存在します。
地域猫を家猫にする手順
家猫として迎え入れる前に、まずは必要な猫グッズを用意しましょう。
- ケージ
- 食器・水入れ
- キャリーバッグ
- トイレ用品
- フード(子猫の場合はミルク・離乳食)等
自宅へ迎え入れる前に必ず動物病院への受診が必要です。捕獲から受診、自宅への移動などをイメージし、必要な用品をあらかじめ用意しておきましょう。
野良猫として生活していた期間が長い猫ほど、人への警戒心が強くなりがちです。無理やりではなく、まず庭先でご飯をあげたり、背中に触れる程度まで心の距離を縮めたりと、猫のペースを大事にしてあげられるのが理想です。
地域猫の里親になるときに注意したいこと
野良猫として生活していた猫には、病気や寄生虫などのリスクが伴います。里親として迎え入れたら、まずはじめに動物病院でしっかり検査を受けましょう。先住猫がいる場合は、すぐに会わせるのではなく一定期間隔離しておきます。
また、お外で暮らしていた猫にとっては、家の外も縄張りとして認識してます。この場合、家猫として迎え入れたあとも脱走を試みたり、お外を求めて激しく鳴いたりすることも。
家猫として迎え入れた以上、猫を守るために「完全室内飼育」の徹底は欠かせません。よって、家の中でストレスを発散できるような環境を整え、おうちが猫ちゃんにとって幸せな環境になるよう配慮してあげましょう。
家猫の飼い主さんにお願いしたいこと
飼い主のいない猫の中には、もともとは飼い猫だった子もたくさんいます。飼い主に捨てられた猫が野良猫となり、繁殖をして数を増やす。増えすぎた猫たちが、人間の手によって殺処分という悲しい結末を迎える……。
このような悲しいスパイラルは断ち切らなければなりません。これ以上飼い主のいない猫を増やさないために、殺処分される命を生み出さないために、飼い主が責任を持って『終生飼養』を徹底することが何よりも大切です。
また、家猫を望まない妊娠や交通事故から守るためにも、不妊・去勢手術を実施したうえでの『完全室内飼育』の徹底をお願いします。
『地域猫活動』できることから始めてみませんか?
猫の殺処分をなくし、人も猫も幸せに暮らせるような地域の環境改善を図るために、私達一人ひとりができることは何かを考えてみましょう。
『地域猫活動』では、野良猫として生まれてきた猫や捨てられてしまった猫を「地域猫」として適切に管理することで、飼い主のいない猫の繁殖を防ぎます。
この世に生命を受けた猫たちが、地域環境の中でできるかぎり快適に長生きできるように、という願いが込められた活動でもあります。地域猫活動にとって、飼い主のいない猫も尊い「命」として守り、地域全体の環境問題として捉えていくことが重要です。
この記事をきっかけに「地域のために参加したい」「地域猫に興味を持った」「野良猫を家猫にするにはどうしたらいいのか」「里親になりたい」など、少しでも興味を持ったなら、ぜひできることから一歩を踏み出してみてください。