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多頭飼育崩壊とは?なぜ起きる?原因や犬猫のレスキュー事例のご紹介

「近所に多数の猫がいる」「犬の鳴き声がうるさい」「ペットの飼い主がいなく野放しになっている」など、このような通報が日々自治体や動物愛護センター、保護団体に入ってきます。

飼い主が不妊・去勢手術などの適切な処置を行わず、無秩序に増え続けてしまった結果、適正飼育できる頭数を超え、公衆衛生の問題や、不適切な環境での飼育、動物福祉の問題が生じる状態を多頭飼育崩壊と呼びます。

昨今のペットブームにより、ペットを飼う家庭が増加した一方で、このような多頭飼育崩壊という悲しい現状が起きてしまっています。

本記事では「多頭飼育崩壊」が起こっている原因や現状、各自治体や保護団体が実際に取り組んでいる事例などをまとめてご紹介していきます。

多頭飼育崩壊とは?

初めは1匹だけ飼っていたペットが2匹以上になり、去勢手術をしないまま増え続けてしまう……。増え続けた犬・猫たちに対し、飼い主が適正に飼育できなくなってしまった状態を多頭飼育崩壊と呼びます。

多頭飼育崩壊に陥る飼い主の多くは、何らかの障害を持たれていたり、社会的に孤立してしまっている、経済的に困窮しているなど、生活困窮の状態にある事が多いと言われています。飼い主自身の生活が困窮する中、増えてしまった犬猫に適切な生活環境を与えることは難しく、栄養的、衛生的、行動的な面でケアができず、動物福祉の低下につながります。

なぜ、このような現象がおこってしまうのでしょうか。「多頭飼育崩壊」が起きてしまう原因について解説していきます。

多頭飼育崩壊はなぜ起きる?3つの原因を紹介

多頭飼育崩壊が起こってしまう原因には、以下の3つがあげられます。

  • 飼い主の環境変化
  • 70歳以上の世帯主が飼育する犬・猫の増加
  • ブリーダーの経営難

共通点が、「経済的に飼育することが難しくなってしまった」こと。

環境省では、「ペットを増やす前に考えて欲しい」というタイトルで、犬・猫などのペットを2頭以上飼う時の注意点について伝えています。

ですが、日本各地で多頭飼育崩壊という問題が露呈し続けています。具体例を用いてこうした現状の原因を詳しく見ていきましょう。

参考:環境省「もっと飼いたい?」より

飼い主の生活環境変化

飼い主である家族の生活環境の変化は、犬・猫にとって大きなダメージになります。生活環境の変化として、次の理由が多くみられてます。

  • 死別
  • 別居
  • 失業
  • 病気

特に死別や別居は、一緒に暮らしていた家族にも精神的なダメージが重くのしかかってきます。2割以上の方が家族を失った「喪失体験」をしており、孤独を埋めるために犬・猫に執着したり、反対に無気力状態で適正な飼育ができなくなってしまったりするケースがみられます。

また、失業や引越しなどを代表例とする環境の変化や、突然の病気や事故などによる心身の変化も、多頭飼育崩壊の要因となります。変化に伴い今まで行ってきた不妊・去勢手術代が払えなくなったり、衛生的な環境を与えてあげられなくなったりと、小さなほころびから多頭飼育崩壊へ崩れ落ちてしまう場合も多いです。

70歳以上の世帯主が飼育する犬猫の増加

高齢化社会が続く中、70歳以上の世帯主が飼育している犬・猫も増加しています。環境省の「多層飼育対策に関する検討会」の資料の中でも、保健所に引き取られる犬・猫のペットの「4分の3」は高齢者が飼い主というデータもあります。

70歳以上の高齢世帯の場合、病気や認知症などにより施設入居や入院の必要性に迫られたり、適切な判断力・体力が衰えてしまったりするリスクが高まります。

何らかの事情により突然飼い主がいなくなり取り残されてしまった犬・猫が、多頭飼育崩壊の現場で初めて見つかり、保護されるケースも後を絶ちません。

参考:「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン」環境省より

ブリーダーの経営困難

コロナ禍によりメディアで耳にする機会も増えたペットブーム。日本国内でも過去に複数回のブームがあり、ペットを家族として迎え入れる家庭が増えています。しかしその背景には、犬・猫の繁殖だけを考え粗末な環境下で飼育している悪質ブリーダーも多く存在し、社会問題となりました。

実は、「ブリーダーが犬・猫を繁殖できる基準が低い」ことも原因のひとつになっています。そのため、犬・猫の命を軽視した「利益重視」の行為は、ブリーダーの手に委ねられてしまっています。

国や保健所でも悪質業者を排除するために法整備などの強化を進めていますが、そう簡単に解決できる問題ではありません。

増え続けてしまった犬・猫は、やがて悪質ブリーダーの経営難に伴い多頭飼育崩壊を起こしています。

ブレーキが効かない!犬猫の多重飼育崩壊のニュース

「多頭飼育崩壊」は、起きてしまってから発見されるケースが多くなってきています。そのため、現状を把握しておらず、発見された後のニュースが途切れることがありません。

どのような状態で飼育されているかを知るためにも、最近起きた「多頭飼育崩壊」のニュースを紹介します。

飼い主の高齢化による多頭飼育崩壊

2022年7月、長野県の北信地域で猫の「多頭飼育崩壊」が起きていると動物愛護団体に相談が寄せられました。飼い主は一人暮らしの60代男性。6月に病気で亡くなってからは誰も世話をしていない状態で、数が増え続けてしまったようです。

突然の家族の死や飼い主自身の病気発症は、社会的な孤立を生み出します。犬・猫を増やしすぎてしまう原因のひとつとして、「空白の気持ちを埋めるため」に動物に依存してしまうケースも……。高齢者に限らず、孤独感や孤立感が原因となり、多頭飼育崩壊につながってしまう事例もあるのです。

多頭飼育崩壊を救うレスキュー事例を紹介

「多頭飼育崩壊」が起きてしまう前に救える手立てはあるのでしょうか。原因がわかっていれば、悲しい現実が起こることはありません。

環境省や自治体では多頭飼育崩壊を事前に防ぐ取り組みを実施しています。また、各動物保護団体などによるボランティア支援によっても、「尊い命を救いたい」という思いで犬猫を救うためのさまざまな活動が行われています。ここでは、それぞれの事例について紹介します。

環境省や自治体が行う多重飼育防止対策の取り組み

環境省では、「多頭飼育崩壊対策」ガイドライン」が策定されています。

○ガイドラインのねらい
これまで「動物の問題」としてとらえられがちであった多頭飼育問題は、動物の飼育状況の悪化だけでなく、飼い主の生活の質の低下や、悪臭や衛生問題といった近隣への迷惑をもたらす、人と地域の問題まで含めた広がりを持っています。その背景には生活困窮や社会的な孤立等があり、社会福祉的支援が必要な飼い主が多いこと、飼い主から強制的に動物を取り上げることが難しいこと、さらに再発リスクが非常に高いこと、そして根本的な解決のためには飼い主に働きかける必要があることから、「人の問題」と「動物の問題」として別々に対応するのではなく、関係者が連携して対応することが重要です。
本ガイドラインでは、社会福祉部局、動物愛護管理部局をはじめとする多様な関係主体が連携・協働し、多頭飼育問題の予防と解決に向けて取組を進めるための考え方、対策等を整理しました。

環境省「人、動物、地域に向き合う多頭飼育対策ガイドライン~社会福祉と動物愛護管理の多機関連携に向けて~」

犬猫のボランティア団体の支援

多頭飼育崩壊の助けにおいて、ボランティア団体・保護団体の支援はなくてはならないものとなっています。以下のような支援を行いレスキューに参画している団体も目立ちます。

  • 保護した犬・猫のためのシェルタースペースを準備
  • 預かり先のボランティアさんの確保
  • 無償で去勢手術の処置を行う
  • 怪我や病気の犬・猫のケア

また、犬・猫の保護数が多すぎて一つの団体では受け入れが難しい場合には、近隣の複数団体で助け合うケースもあります。

多頭飼育崩壊のレスキュー現場では、これらの活動を引き受けてくれるボランティア団体の支援があるため成り立っているといえるでしょう。保護団体と自治体とが協働するケースもあります。しかし、多くの任意団体の支援があるとはいえ、現実に全ての犬・猫を受け入れきれないのが現状です。

飼い主へのサポート体制のシステム化

多頭飼育崩壊を起こしてしまう飼い主は、多くが自分からは助けを求めません。現状を正しく把握しきれていない飼い主が多いため、サポートするには説得からはじまります。

これまで説得やサポート体制そのものが不確立だったことを受け、システム化を図る自治体・団体も出てきています。

例えば、経済的な事情で去勢手術ができずに多頭飼育崩壊を引き起こしてしまった飼い主に対し、ボランティアの介入によって自己負担なく手術を行い、飼い主が犬・猫と引き続き一緒に暮らせるサポート体制をシステム化している事例もあります。

多重飼育崩壊が起こらないためにできること

「犬猫を家族に迎えるなら、不妊・去勢手術を」

犬・猫を飼うときに、飼い主さんへ伝えたいメッセージです。

昨今のペットブームにより、各家庭では次々と犬・猫などのペットを飼うようになりました。

ペットは家族の一員です。「自分の家族にとって、適切な数の犬・猫を飼っているのか?」「命が尽きる最後の日まで、守り続けられるのか?」

尊い命を救うためにも、まずは飼い主さん一人ひとりが今からできる行動を起こしてみませんか。

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